メイク変えたらモテた 恋愛小説

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メイク変えたらモテた 恋愛小説

(加奈子)「年下男子ってさ、受け身なのかなぁ。やっぱりこっちから連絡先聞くべきだった?」

合コン後、女子だけの反省会という名目で、バーで飲み直していた。

30代の私たちを“女子”と呼んでも良いものか、まあそれは置いといて、今日の男性陣は皆20代で、年上である私たちに委縮してしまっている感じがした。

(麻央)「え?連絡先、教えてくれたよね」
と、思っていたのは私だけだったようだ。

会社の同僚である麻央は、年下男子の連絡先をゲットしていた。

(加奈子)「うそ!いつの間に?!」

(麻央)「あっ、加奈子あの時トイレ行ってたわ!」

(加奈子)「うわあ、我ながらタイミング悪い!」

がっかりする私に追い打ちをかけるように、美紀が言った。

(美紀)「……ねぇ、聞きたかったんだけどさ、加奈子って本当に婚活する気ある?」

今まで彼氏がいないわけではなかった。10代も20代も、それなりに男性とお付き合いをしてきた。でも20代後半になって仕事が楽しくなってきて、結婚は30歳までにできればいいやと思い始めたころに、ぱたりと男性と縁がなくなった。

まわりの友達は30歳を目前に結婚ラッシュ、出産ラッシュ。そろそろやばいと思い始めたころには30歳を超えたけれど、職場には同じような独身のアラサー、美紀と麻央がいて、口で言うほど本心では焦っていなかった。今日みたいに合コンに参加していれば、そのうち何とかなるだろう、と思っていた。

(麻央)「ちょっと、美紀……」

(美紀)「麻央は黙ってて。酔った勢いで言わせてもらうけど、加奈子の本気度が伝わんない!」

(加奈子)「ほ、本気だよ!今日だってばっちりメイクしてきたし、服だって……」

今日は男性陣が年下だと聞いていたから、若々しく見えるようにファンデーションの色も明るくしたし、目元もくっきりとラインを引いて、服も雑誌を見て今年の流行を意識して取り入れたつもりだ。

(美紀)「そう、それよ!化粧、厚塗りしすぎなのよ。首と顔の色が違うのよ。服だって、無理して若作りしてるのがまるわかりで痛いのよ!」

(麻央)「美紀、酔いすぎだって〜……」

(美紀)「ちょっと考えればわかるでしょ、年下男子は包容力のある年上女性を求めてるのよ。落ち着いた雰囲気出さなきゃいけないところで、何きゃぴきゃぴしてんのよ」

開いた口がふさがらなかった。まさか、そんな風に見られていたなんて。

(麻央)「あのね加奈子、美紀は加奈子のことを思って言ってくれてるんだよ、わかってあげてね?」

(美紀)「麻央、しばらく合コンは一時休戦よ。加奈子のセンス磨き直してからじゃないと、私たちまで変な目で見られちゃう」

(加奈子)「す、すみません……」

(美紀)「次の休みは買い物いくよ!」

そんなこんなで、この日は解散となった。数時間前まで、今夜はお持ち帰りされるかもなんて淡い期待を抱いていたが、見事に打ち砕かれ、終電にも余裕で間に合ってしまった。

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平日は仕事に追われ、慌ただしく過ぎた。

あっという間に週末になり、ランチもかねて11時にデパートのある駅前で待ち合わせた。私は時間通りに着くように待ち合わせ場所へ行ったが、既に美紀と麻央は銅像の前に立っていた。

(美紀)「加奈子、今日はえらくカジュアルなのね……」

美紀は呆れていた。

(加奈子)「え、落ち着いた雰囲気、って言ってたから」

(麻央)「加奈子って、極端だよねぇ」

麻央は面白そうに笑っていた。

(美紀)「まあいいわ。とりあえず、ランチ行こ」

はっきりと意見を言う美紀と、おっとりとした麻央と、こんな私と。性格がばらばらな3人だが、それぞれの足りないところを補える関係というか、不思議と3人でいると居心地がよかった。仕事中は気を張っているが、プライベートで会うと素の自分でいられた。

そして、今日も美紀はズバズバと言ってきた。

(美紀)「この間は化粧の厚塗りで分からなかったけど、加奈子、肌荒れてない?」

(加奈子)「えっ、わかる?そうなの、だから隠すためにも厚く塗ったの!」

(麻央)「太陽光に当たると肌荒れ目立つよね〜。だから合コンでは薄暗いお店選んでるけど」

麻央が店を選ぶときに、照明の明るさまで気にしてくれているとは知らなかった。そりゃあ、美紀から見たら私の本気度は低いだろう。

(美紀)「基礎化粧品、どこで買ってるの?」

(加奈子)「えっと、近所のドラッグストアか、たまに100均で……」

(美紀)「はぁ?!」

(加奈子)「だって、高い化粧品ちまちま使うより、安くてもたっぷり塗った方がいいって聞いたもん!」

私はそう言い返したが、美紀は聞く耳を持たなかった。そんな私と美紀の間を取り持つのは、いつも麻央だった。

(麻央)「10代とか、20代前半はそれでもよかったけどねぇ。私たち、もうお肌の曲がり角過ぎたしねぇ」

麻央は優しいなぁ。そう思っていたら、美紀が大きなため息をついた。

(美紀)「30超えたら、曲がるだけじゃなくて急降下だよ。ランチしたら服見ようと思ってたけど、やめだ。こりゃ化粧品からだ」

いつもならランチセットにデザートを付けて、いつまでもおしゃべりをしているのだが、今日は早々に席を立ってデパートへ向かった。2階のフロア全面が化粧品売り場になっており、エスカレーターで上がっていくと、各々の売り場から化粧品独特の匂いが漂っていた。

(美紀)「そんな、バカ高い化粧品じゃなくてもいいのよ。自分の肌の状態に合ってるやつで、手ごろな値段なの、探せばいくらでもあるんだから」

美紀はそう言うが、いろいろな商品で溢れかえっていて選びきれない。売り場を見渡すと知っているブランド名もちらほらあるが、どれも値段の高いイメージのあるブランドだった。

(麻央)「まぁ、まずは自分のお肌について知ることから始めないとね。店員さんが相談に乗ってくれるはずだよ〜。とりあえず、ぐるっとまわってみようか」

麻央の言う通り、歩いていると店員さんの方から声をかけてきた。

無料でカウンセリングをしてくれるらしかった。促されるままイスに座ると、頬に機械を当てられた。数秒でピピピと音が鳴り、結果が出た。どうやら私は乾燥肌らしかった。

化粧水で潤すだけではなく、乳液で保湿をすることが大切らしい。その後も美容液やパックなど様々な商品の説明を受けたが、頭に入りきらず、これらを全て買い揃えたら一体いくらになるのかと考えたら恐ろしくなって、軽いパニックを起こしかけた時に、美紀が「ほかのお店も見てみたいので」と断ってくれた。

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(麻央)「加奈子、ちょっと休もっか」

麻央も私の状態に気付いてくれて、1階に降りてコーヒーショップへ入った。

(加奈子)「頭が……パンクしそう……」

(麻央)「あはは!一気にいろいろ言われても、わからないよねぇ」
頭を抱える私を見て、麻央が笑った。

さすがの美紀もこんな状態の私に厳しい言葉は浴びせない。励ますように、「肌のタイプが分かっただけでも一歩前進だね。店員さんが言ってた通り、保湿重視で選べばいいよ」と言ってくれた。

コーヒーの香りで徐々に心が落ち着き、ほのかな苦みで頭がすっきりとしてきた。

(加奈子)「いろんな種類があったけど、どれが私に合うのかなぁ……正直、化粧品にばっかりお金もかけられないし……」

真剣に悩む私に、美紀はある提案をしてくれた。

(美紀)「いろいろ試してみたら?ネットとかで、トライアルセット頼んでさ」

(麻央)「私もお試しセット使ってから決めたよ〜。使い続けるって決めた時も、初回割引とかあってお得だったし」

麻央はそう言ってスマホを取り出し、自分が使っている化粧品のサイトを開いた。メイク落とし、洗顔料、化粧水、美容液からナイトクリームまでついていて、1週間試せるらしかった。

(加奈子)「麻央が使ってるやつなら、安心かな……」

(麻央)「これねぇ、とにかく香りがいいの!使ってると幸せな気分になれるんだ〜。もし合わなければ他のにすればいいんだし、とりあえず注文してみる?」

(加奈子)「うん!」

私もスマホを取り出して、麻央と同じサイトを開き、注文ページから名前や住所を入力した。あっという間に注文が完了した。

(加奈子)「でも、基礎化粧品はこれでいいとして……ベースメイクとか、ポイントメイクはどうしたらいいんだろう」

(美紀)「ちょっと、化粧ポーチ見せて」

カバンからポーチを出し、美紀に手渡した。麻央も一緒に中身を確認した。

(麻央)「うん、今まで使ってたものでもいいと思うよ〜。問題は使い方だね」

(美紀)「若い頃の盛り盛りメイクは忘れな。大人になったら、いかに引き算するかだよ」

(加奈子)「引き算?」

(麻央)「手抜きとか、薄いとかいう意味じゃないよ!」

(美紀)「ちょうどスマホ持ってるんだし、引き算メイクって検索してみなよ。いくらでも出てくるから」

美紀の言う通りだった。“引き算メイク”は旬のワードのようで、どのようなメイクをそう呼ぶのか、またどのようにメイクすればよいのか動画までアップされていた。

(加奈子)「……これなら、私にもできそう」

(美紀)「肌の調子を整えて、メイクの盛りすぎを避ける。これだけで、ずいぶん年相応の見た目になれると思うよ」

美紀の助言はいつだって的確だ。美紀を信じて、やるしかない。

(麻央)「さっき頼んだトライアルセット、早ければ3日くらいで届くと思うよ。まずはそれを試してみて、またわからないことあったらいつでも聞いて!」

麻央はいつだって、優しくサポートしてくれる。困ったら、助けを求めればいい。

(加奈子)「美紀、麻央、ありがとう……」

自分が進むべき方向性が決まったことに、ほっとした。が、それは化粧の話であって、まだ服が揃っていなかった。化粧品選びだけでぐったりしたのに、これから服を選ぶなんて……という私の心配は杞憂に終わった。

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美紀と麻央に予算だけ伝えると、年相応に見えて私に似合いそうな服をいくつか見繕ってくれたので、私は試着室でスタンバイし、次々と運ばれてくる服を着せ替え人形のように着ていくだけでよかった。その中から何点か気に入ったものを購入し、本日の目的は達成した。

(麻央)「じゃあ、また明日会社でね」

(美紀)「朝と夜のスキンケア、怠るなよ!」

そういって別れ、それぞれ帰路についた。

麻央の言っていた通り、トライアルセットは3日後には郵便受けに入っていた。小さな箱を開けてすぐに、天然香料ならではの優雅で奥深い香りが広がった。

中には使い方の説明書きも入っており、さっそくその日の入浴中にメイク落としと洗顔料を、入浴後に化粧水と美容液とナイトクリームを使った。

あれこれ使うのは手間だし煩わしいと思っていたが、きめ細かい泡とオーガニックな香りに包まれて、いつも以上にリラックスしたバスタイムとなった。

化粧水も美容液も、いつもはぱしゃぱしゃかけるだけだったが、説明書きにあるように手のひらで温め、肌に浸み込むようにと意識しながら頬に当てていくと、頬の皮膚が手に吸いついてくるようで、とても心地よかった。

目を閉じて、指の腹で優しくまぶたや目じりにも浸み込ませていく。仕上げにナイトクリームで潤いを閉じ込めた。深呼吸して、肺いっぱいに香りを吸い込むと、麻央の言っていたように幸せな気分になった。今夜はよく眠れそうだ。

翌朝も同じようにして、メイク落としとナイトクリーム以外の化粧品を使った。

頬に手をあてると、肌がモチモチするのが、文字通り手に取るようにわかった。化粧のノリもよく、いつも顔の上を何往復もさせていたファンデーションのパフは一方通行のみ。アイシャドウやアイラインも、美紀に教えてもらった“引き算メイク”を意識して、控えめにした。

いつもと違う自分に、少しドキドキしながら出勤した。

出社してすぐに廊下で会った麻央は私の変化に気付いてくれて、「いい感じだね」と褒めてくれた。麻央が連絡したのか、美紀はわざわざ昼休みに私の部署を覗きに来て、「いいじゃん」と言ってくれた。友人にそう言われると自信が増すもので、午後はいつもより背筋が伸びた状態で仕事に取り組むことができた。

トライアルセットを使い始めて4日目。私の中で、この化粧品を使い続けることは既に心に決めていた。まだ1週間経っていないけれど、今注文すれば間を空けずに使用できる。今夜あたり、またネットから注文しよう、そう考えていたら、部長に声をかけられた。

(部長)「荒川、お前最近男でもできたか?」

(加奈子)「でっ、できませんよ!それセクハラですよ」

荒川は、私の苗字だ。仕事中に上の空だったことを指摘されたと思い、ドキッとした。私のセクハラですよという発言に、まわりで笑いが起こった。その笑い声の中から、後輩の宇野くんの声がした。>

(宇野)「でも荒川先輩、最近なんか雰囲気変わりましたよ」

(加奈子)「えっ、本当?」

(宇野)「大人っぽくなりましたよね。あっ、女性にこんなこと言ったら、セクハラになるのかな」

また笑いが起こった。その笑い声に、一瞬、からかわれたのかと思ったが、宇野くんはそんな人ではない。ああ、大人っぽいって褒められたんだ、とじわじわ心に染みてきて、嬉しくなった。

昼休みになり、コーヒーでも買いに行こうと自動販売機を求めて外に出ると、宇野くんが追ってきた。

(宇野)「荒川先輩、さっき部長に男はいないって言ってましたけど、本当ですか?」

(加奈子)「本当だよ。一緒に仕事してて、男の影みたことある?」

(宇野)「ありませんね」

(加奈子)「でしょ」

もう、失礼だなあと思いながらも、二人で笑いあった。

笑い終えると、一瞬の沈黙。でもすぐに、宇野くんが声を出した。

(宇野)「あの、僕と……」

そこで、止まった。僕と……もしかして、付き合ってください? 勝手に妄想し、心臓が高鳴る。今まで、後輩としか見ていなかった宇野くんが、急に男に見える。

(宇野)「今度、しょ、食事でもどうですか?……ふたりで」

さすがに、告白ではなかった。でも、十分すぎるくらい嬉しい誘いだった。

(加奈子)「喜んで」

自動販売機の前で100円玉を握りしめ、ここは僕が、いや先輩の私がと、そんなやり取りも楽しいと感じた私は、もうすでに宇野くんに恋しているのかもしれない。

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